学長ブログ

6月の学長ブログ

 2023年度もりや市民大学「守谷を知る」コースにて、久しぶりに講師を勤めました。パワーポイントを準備し、配布資料を編集して臨みました。お題は「守谷の土と水―その恩恵を考えるー」でした。お陰様で、教室は定員いっぱい、満席状態でした。オンライン出席の方も2名おられ、川崎運営委員の司会にてハイブリッド方式の講義が始まりました。

 

 聴衆を前にしてお話をする際、いつも心掛けているのは、自分が面白いと思わない話は聞いている人も面白くない、ということです。では、自分が面白いと思う話とは何か、と言えば、自らの手、足、頭、目などを動員して獲得した知見や情報を整理し、筋道を立て、何が言いたいかをはっきり示すことです。自分が抱いた疑問をどのように解きほぐして行ったか、そのプロセスもお伝えしたい中身になります。守谷市に貝塚がある、と聞いて実際に現地へ行き、貝塚を発見するに至ったプロセスは、自分でも「面白いな」と思いました。

 

 問題は、自分が面白いと思う事項を聴衆も面白いと思うか、という疑問です。これはyes/no どちらもあること、当然です。私が疑問に思い、知りたいと思うことは、他者もまたそのように思うだろう、という信念を貫くと、NHK朝ドラの主人公、植物学者の牧野富太郎になれます。この植物の名前を知りたい、と心から願い、また、日本中いや世界中の人々もその花の名前を知りたいと願っているに相違なし、と信じて疑わないので、初めは疑心暗鬼だった周囲の人々も、やがて牧野富太郎に引き寄せられ、共感すら得ていきます。

 

 こんな朝ドラを見せてもらうと、一人の人間が「知りたい」と思う純粋な疑問を解き明かす作業というのは、人の心に触れるほどに深い魅力を持つのだろうと思わずにはいられません。さて、私の「守谷の土と水を知りたい」の願い、皆様に通じたでしょうか?講義後にはアンケート調査が用意されています。そこにどんなご意見が記載されているか、楽しみです。なお、一般に、教室の後方に着席する受講生は、その講師に対して厳しい評価を下すことが統計学的に証明されています。後方座席の皆様からのアンケート結果が出たら、再び学長ブログにご紹介しましょうか?

 

5月の学長ブログ

 最近、集まって飲み会やろう、食事会やろう、という声が増えていると思いませんか?私の周りでは確実に増えています。3年、いや、4年ぶりの集まりもあるようです。日程が重ならない限り、まず参加することになります。飲み会、食事会だけでなく、前向きな姿勢が社会全体に広がると、なにやら明るい希望が芽生えてきます。テレビや新聞のニュースで深刻な事件、世界の不安、地球環境の危機などを見ると、そんな能天気で良いのか?と疑問が湧きますが、何はともあれ元気であることが大切かと。

 

 そんな雰囲気の中で始まる2023年度もりや市民大学、開講日(6月10日)が近づきました。新型コロナ感染も第5類になり、ようやく日常生活を取り戻しつつある中での開講、どれだけの市民が参加してくれるか、期待と不安の中で募集締め切りとなりました。集計結果を見ると、「守谷を知るコース」定員35名のところ、約50名の応募を頂きました。「いきいきシニアコース」の応募もおよそ30人、「まちづくり協議会コース」の応募も約23組(グループで申込可能でした)、何れも予想を上回り、定員超過分を公平な抽選などで選ばなければならない状況が生まれています。

 

世の中全体もコロナ後に向かって急速に活動を再開する中、皆さんが積極的に動き出すのは当然なのでしょう。市民大学運営委員会では、このような状況を歓迎しております。コロナ禍の中で、教室授業だけでなくオンライン授業が可能となったことは収穫でした。Zoomが使えるので受講可能となった方も増えただろうと思います。今回、定員超過で抽選の結果ご希望に添えないことが生じることにつき、申し訳ない気持ちで一杯です。希望者全員の入学を許可したい気持ちは山々ですが、教室の物理的限界などのためご容赦願います。

 

教室では、講師と受講生間の交流だけでなく、受講生同士の交流ももっと盛んになることが期待されます。「袖すり合うも他生の縁」とはうまいことを言うものです。教室で大いに「袖すり合い」を試してください。実は、もと受講生だった方が希望して運営委員に加わって下さった例が多数あります。受講生の先輩にあたる運営委員との「袖すり合い」もよろしくお願いします。

4月の学長ブログ

 

 黄砂の話題が急浮上しています。空が霞む、車の屋根に粉状の汚れがつく、アレルギー症状が出る、といった迷惑体験が報じられています。私自身も花粉症と同じような健康被害を自覚しているところです。

  この件について、私も参加した研究チームから12年前に発表した「黄砂・越境大気汚染物質の地球規模循環の解明とその影響対策」という報告書(日本学術会議風送大気物質問題分科会)では、黄砂のデメリットとメリットを並列して記載することにしました。黄砂はニュースで報じられるよりもっと悪いデメリットと、実は地球環境に良い影響を与えるメリットとが、併存している事実を科学的に報告したものです。まず、デメリットですが、冒頭に記載したような生活密着型のデメリット以外にも、黄砂に付着した病原菌として家畜の口蹄疫、豚コレラ、麦サビ病、などが疑われています。さらに、精密機器への障害、目詰まり、遮光害、などもあります。

  ところが、黄砂には意外なメリットがあるのです。まず、魚類の餌となる植物プランクトンを増殖させる効果をもたらす栄養塩(カリウムやカルシウムや鉄などの微量要素)を自然生態系にもたらしていると考えられています。さらには、中国の黄砂は、実はアルカリ性なので、酸性物質を中和する働きがあります。一昔前に公害で騒がれた酸性雨も、黄砂によって中和作用が働いていたのです。もっと驚くべきメリット、それは、あの原発事故でばらまかれた放射能物質を吸着して作物を放射能汚染から守る力がある、ということです。この研究は、日本の最新研究で解明された新発見です。詳しい理論をこの学長ブログに記載することは、無理があると思います。

  しかし、これだけは言いたいです。我々が暮らしている守谷市を含め関東地方全体を覆っている火山灰土壌(黒ボクと呼ばれる)は放射性セシウムを吸着する力が弱く、したがって、セシウムは自由に動き回って大気や地下水や土壌を汚染するはずでした。ところが、長い年月、黄砂が降り注いでいたので、黄砂に多く含まれる雲母系鉱物が土に混入し、この雲母系物質が放射性セシウムをガッチリ掴んで離さない、したがって、セシウムは環境中に拡散しないし、植物や生態系にも移行しない、ということが分かってきたのです。黄砂は我々を助けてくれてもいる、という科学的事実。まだ、専門研究者の間でしか知られていない事実ですが、「黄砂」を敵視するだけでは、科学的判断を誤る、とだけ申し上げておきたかった次第です。

3月の学長ブログ

 「書評」という書き物は面白い、と思います。書評が魅力的だと、その本を読んでみたくなるのは当然でしょう。最近私が注目している書評というと、京都大学で食農思想史を専門とする藤原辰史准教授です。朝日新聞の書評欄で頻繁に目にします。農学分野なので、農業問題専門かと思いきや、かなり幅広い分野の書評を手掛けており、いつも心を動かされるのです。最近では「犠牲者意識ナショナリズムー国境を超える「記憶」の戦争―」「さすらう地」などの書評が心に刺さり、ご自分でも「戦争と農業」などの著書があります。

 

 もっとすごい「書評」に出会いました。米原万里著「打ちのめされるようなすごい本」というタイトルです。そのおどろおどろしいタイトルに引かれて、図書館で借りてきました。米原万里さんはロシア語通訳を本業とした作家で、ロシアのゴルバチョフやエリツインが名指しで指名するほどのロシア語同時通訳者です。この本は、週刊文春や読売新聞などに掲載された同氏の「書評」全てを1冊の本にまとめ上げたもので535頁もあります。そこで取り上げた本は日本語とロシア語(和訳された)の膨大なもので、しかも一つ一つの「書評」がウーンとうならせるような濃度です。タイトルにある「打ちのめされるような」は伊達ではありませんでした。

 

 ところで、この米原万里さんの本の最後尾にも「書評」(解説と書かれている)がありました。曰く、「「書評」は褒めれば甘いと叱られ、辛口にすればたぶん一生恨まれ、ほどほどにしておけば毒にも薬にもならない役立たずと軽んじられる。おまけに、手間暇はかかる。稿料は安い。大きく扱われることもない。」などと言いながら、嬉々としてその書評を書いていました。書いた人は井上ひさしです。あの、「ひょっこりひょうたん島」の作者です。この「書評の書評」が、さすがに面白いのです。

 

 そんなことで、今回のブログは「書評」三昧でした。書評から手繰り寄せた本が自分にピタリと合うと、嬉しくて充実感を味わうことができます。逆に、「書評」がうますぎて、現物を読んだらそれほどでもなかったときは、何だか損をしたような気がします。さらに、友人、知人が「読んで面白かった」と知らせてくると、当然、触発されて自分も読んでみます。春うらら、読書しながらうつらうつら、となる気配です。

2月の学長ブログ

 東京都日野市で「ネイバーズファーム」という農業生産経営を代表している川名さんのお話を聞く機会がありました。ネイバーズ、つまり「お隣さんちで採れた野菜だよ!」という近隣地域繋がりをそのまま拡大してビジネスにまで成長させた方です。農地のもつ価値を最大限発揮し30年後に続く都市農園を作るのが夢だそうです。環境制御や潅水制御、CO2再利用システム、データ管理システム、ファームカミングデー開催、ブランドコンセプトの明示、SNS・メディア活用など、新技術を最大限活用して地域農業振興を実践しておられる女性です。

 続いて、静岡県で「エムスクエア」という農業生産経営を代表している加藤さんのお話も伺いました。2017年にやさいバス株式会社を創業したことでも知られています。野菜を作る人、それを使って飲食店や小売業を経営する人、そしてそれを食べる人、この3者のバリューサイクルを創ろうとの考えで始めたそうです。野菜作りで欠かせない除草技術において「雑草ふみふみ」という不思議な機械を創作して特許を取得しています。農業経営を通じて生き抜く力をはぐくむ「ジュニアビレッジ」も主催するなどが評価され、男女共同参画チャレンジャー賞を受賞された女性です。

 昨年暮れ、日本学術会議で私が委員長を担当している「地域総合農学分科会」の参考人として上記お二人を招聘し、お話を伺った次第です。現実的で夢と希望があり、地域と密着しながら大きな世界観を持っておられるこのお二人のお話を聞いて、強く感銘を受けました。そして、思ったのです。守谷市でも地元産の野菜売り場が活況を呈していますが、そうした野菜の作り手(農家)、売り手(スーパーなど)、買い手(私たち消費者)の繋がりが薄いなー、と。上記お二人のお話を伺うと、安全でおいしいものを生み出すには生産者だけではダメで、生産者、販売者、消費者の間に良好なバリューサイクル(価値の共有?)のような関係性が必要なようです。

 もりや市民大学で、農業にも目を向けた学びができたら良いなと思わずにはいられません。守谷駅前の「もりやコレクション」そして毎月第一日曜日に開催されている「朝市」は、このような考え方を実践している先進事例だと思われます。一度「朝市」に行ってみよう、と思いました。

1月の学長ブログ

 関東地方は天気に恵まれた静かな正月を迎えることができました。しかし、その後のコロナ感染拡大第8波の動向を見ても、世界の政治動向に目を転じてみても、素直に「おめでとう」と言えない事態が進んでいます。自然環境から社会情勢まで、地球全体が変わりつつあるような不安が増しています。さらに、急速に進む様々なサービスのデジタル化にも戸惑いを隠せません。

 先日、あるクレジットカードでの購買決済をしていた時、どういう訳かそのカードが受け付けられなくなりました。いろいろ試してみても拒否されます。そこで、そのクレジットカードに記載されている問合せ電話番号に電話しましたが、何度試みても「ただいま大変込み合っております」という自動音声メッセージのみで、生身の人間に対応してもらええません。繰り返しトライしたのち、ついにあきらめて別のクレジットカードで決済しました。似たような経験は他にもあります。知人から受け取ったメールに添付されていたファイルがどうしても開けないので、そういう困りごとの相談Webサイトを開き解決策を教えてもらいましたが、試行錯誤の結果、解決しませんでした。やむなく、ファイル形式を変えて頂くよう依頼してやっと用事が済みました。

 少し前には、このように困ったときは電話すれば大抵の困りごとは解決していたと思います。が、最近はそういったサービス提供の質が低下しているように感じます。たとえば、オンラインで様々な商品が届きますが、その商品利用に関する問い合わせ窓口が自動音声ばかりで、生身の人間に達することが難しくなっていると思います。明らかなサービス低下と思います。直接的な電話対応を縮小し、消費者からのクレームや相談をできるだけ自動音声で対応しようとするサービス低下に、かなりイライラが募ります。恐らく、多くの高齢者が似たような経験をお持ちと思われます。

 若い人にはこのようなストレスが少ないのでしょう。いくつもの解決策を手早く見つけ、さっさと先へ進むことができているように見えます。つまり、高齢者の置き去り状態です。高齢者が甘えを捨ててもっと努力すればよいのか、それとも、高齢者を困らせないような寛容なサービスを提供すべきなのか、どちらへ向かって進むのかはよく見えません。ただ見えるのは、更に便利に、更に早く、更に自動化へ進む力だけは確実に強まっている、ということです。良い、悪い、と評価する前に、すでに止まらなくなっているこの動きを前にして、人間はどこまで行きたいの?と問いつつ、遠い目をするばかりです。

 

 追記:この学長ブログ、前回まではコピー&ペイストでさっさと仕上げることができましたが、何故か今回は別に作成した原稿のペイスト(貼り付け)ができなくなり、この原稿欄に直接記載することになりました。この二重手間も、デジタル化のサービス低下の一例になります。

12月の学長ブログ

 月並みの表現ですが、今年も間もなく暮れようとしています。そんな中、日本における今年1年を象徴する漢字一文字が「戦」であると報じられました。そうか、「戦」か、と考えさせられました。確かに、世界規模、地球規模で考えれば「戦」かもしれません。このニュースを聞いて、日本も世界と繋がっているのだなー、と改めて思うところがありました。

 せっかくですから、今年1年のもりや市民大学を象徴する漢字一文字を考えてみましょう。私は「新」を選ぶことにします。思い返してみると、2020年度には2012年開講以来のコース設計大改革を行い、募集案内(パンフレット)を14ページに拡大し、さあ始めよう、という瞬間にコロナ感染拡大が始まり、この年度の開講が全面中止になりました。2021年度は、コロナ対策として開講コースをコンパクト化し、オンラインシステム(Zoom)を導入し、教室対面受講とオンライン受講を併設するハイブリッド型開講としました。募集案内(パンフレット)は見開き4ページで小さくまとめました。2022年度はコロナ感染が収束するかもしれないという期待を込めつつ警戒心も怠らず、ハイブリッド型講座を継続し、募集案内(パンフレット)8ページにまで回復しました。こうしてみると、予想もしなかったオンライン教室を併設開講したこと、また、この1~2年新しい運営委員を多く迎え入れたこと、など新しい体験が増えました。それで、「新」を選んだ次第です。

 しかし、自分自身の身の回りを見直すと、どうも「新」よりは「古」の方が多くなっていますので、私の漢字一文字を選べ、と言われたら、別の文字が浮かんでしまいます。私の場合「続」かな、と思います。今まで通りのことが継続できること、それがありがたいのです。続けていた同窓会やクラス会、続けていたスポーツの趣味、続けていた家族内の交流、続けていた専門分野の仕事、などが、コロナだけでなく色々な事情で少しずつ続けられなくなりました。だから、「続」に希望と感謝の気持ちが湧くのです。来年も今年と同じように、いや、それ以上に続けることができたら、それは嬉しいことなのです。

 さて、皆様、どうぞ自分の一文字をお探しください。希望に満ちた一文字を選ばれた方は、明日に向かって進むのみですね。「勝」でも「幸」でも結構。応援します。

 

11月の学長ブログ

 もりや市民大学は2012年10月に開校したので、今期で10年目を迎えました。そこで、運営委員会では、この10年を振り返り、これからどう発展させればよいかを自由に語り合おう、ということになりました。10年前、手探りで始めた市民大学、なんとかここまでやってきました。運営委員の皆さん、講師の皆さん、サポート役の皆さん、受講生の皆さん、守谷市役所市民協働推進課の皆さん、市民活動支援センターの皆さん、市民大学友の会の皆さん、こうした方々の支えがあって今日があります。

 この10年間、世の中はどのように変化したでしょうか?もりや市民大学が開講した2012年12月には第46回衆院選があり、自民党が294議席を得て圧勝、民主党は惨敗し、退陣した野田佳彦首相は党代表も辞任しました。2013年の流行語大賞に「お・も・て・な・し」が選ばれ、オリンピック・パラリンピックの日本開催決定に浮かれていました。しかし、ご承知のように、その後、金銭をめぐる深い疑惑が残されました。2018年は日産のゴーン社長が逮捕されました。2019年、元号が平成から令和へ移行し、ペシャワールの会の中村哲医師が殺され、渋野日向子が全英女子オープンゴルフで優勝しました。2020年は新型コロナの感染拡大でオリンピック・パラリンピックの日本開催が延期され、甲子園の高校野球は中止となりました。もりや市民大学も開講中止でした。2021年にはオリンピック・パラリンピックが開催され、アメリカではバイデン政権が発足しました。日本では熱海で土砂災害が発生しました。2022年2月24日、ロシアのウクライナ侵攻が始まり、その後、このニュースがあまりにも重いので、他の出来事の記憶がかすんでしまうほどです。

 一方、もりや市民大学の10年を振り返ると、はじめのころは「守谷町から守谷市へ」「守谷の町内会」「守谷の子どもたち」「守谷の自然と環境」「守谷の防災」「守谷の国際交流」「守谷の教育」など、守谷を知ろうという内容の講義が多かったのですが、その後「パートナーシップによる緑のまちづくり」「<わたし>を生かす地域プロジェクトをつくろう!」などといった専門コースを充実させ、実際の行動へと発展させてきました。特に「脳いきいき!ウォーキングで健康貯筋」コースからはウォーキングを市民に広げる活動へと発展しました。これから先、どんな方向へ展開するか、「お・た・の・し・み」と行きたいものです。

 

10月の学長ブログ

 コロナ禍はまだ終息しません。そんな中では各種の会議がオンラインで開催されます。つい先日も15人ほどの全国規模での学者のZoom会議が開催され、私も出席しました。この中で、私はガッカリ気落ちする出来事がありました 。それは、会議中に「プラネタリーバウンダリー」とか「レギュラトリーサイエンス」という言葉が頻繁に使われたからです。「パラダイム」とか「ロバストネス」とか「レジリエント」などの言葉にやっと慣れてきたと思っていたら、更に新しい言葉が登場していました。


 集団の会話の中で、新しいカタカナ文字がまるで昔から使われていた共通用語であるかのように使われるとき、その言葉を知らなかった者は強烈な疎外感に襲われます。知らないのは自分だけなのか、とがっくり来ます。他の人は、その新しいカタカナ文字を当たり前として会話しているのですから、ついていけない参加者は蚊帳の外になります。いったい、その言葉はいつからどこで使われ始めたのか、誰が言い始めたのか、チンプンカンプンです。そこで、急いでスマートホンにその言葉を書き込んでネット検索し、何とか遅ればせながら会議の会話に追いつこうとします。


 こうした経験は、恐らくどなたもお持ちだろうと思います。新しい言葉を、あたかも皆が知っているかのように当たり前の言葉として使うこと、これは刺激的ですが少々辛い状況です。若者の場合、新しい言葉を瞬時に共通語として認知する運動神経が非常に鋭いのですが、高齢者の場合、新しいカタカナ文字に馴染むには時間がかかります。ちょうど、パソコンやスマホに馴染むのに時間がかかるのと同じだと思います。

 会議の中で知らない言葉が当たり前に使われるときに味わう疎外感、それに耐える力が必要でしょうか?それとも、「日本語が乱れとる!」と怒るのが正道なのか?皆さんはどうお考えですか?私は、まずはガッカリ気落ちします。それから、気を取り直してその新しいカタカナ文字が表現している現実社会を眺めます。そして、考え込むのです。そうか、新しい視野はこうして開かれるのか、と感慨深いのです。

 脚注:プラネタリーバウンダリー「人類が生存できる安全な活動領域とその限界点(ウィキペディア)、2020年頃から世界に広まった新概念」、レギュラトリーサイエンス「身の回りの現象に関する科学的研究成果を国民の健康に資するための科学(私の意訳)、2011年閣議決定の中で使われた新用語」、パラダイム「ものの見方、考え方を支配する認識の枠組み(オックスフォードラングイッジ)」、ロバストネス「外乱の影響によって変化することを阻止する内的な仕組み(ウイキペディア)」、レジリエント「弾力性、柔軟性、回復力のある(ソフトバンク)」、一応、上記の新語の説明文を付記しました。
 

9月の学長ブログ

  筑波山頂から東へ約7.5km離れた場所に石岡市柿岡という地名があります。さらに東へ約2㎞進むと東筑波カントリークラブというゴルフ場があります。さて、この石岡市柿岡という地名がTXや常磐線と関係が深く、しかも世界における重要拠点である、ということを知ったのはごく最近のことです。     

  8月28日(日)朝は生憎の雨でしたが、TX守谷駅改札口に珍しい光景がありました。小学校高学年の子供とその親15組が集合でした。目的は、もりや市民大学公開講座「学ぼう!TX講座」親子イベントへの参加でした。お父さんが多い様でした。この講座、人気が高くて、抽選で外れてしまった方も大勢でした。さて、TX講座の話の中で登場したのが石岡市柿岡です。この地に気象庁磁気観測所(海外ではKAKIOKAと呼ばれている)が設置されているそうです。

  そして、講座で学んだのは、TXは秋葉原から守谷まで直流電流、守谷駅からつくば駅までは交流電流、JR常磐線は上野から藤代駅付近まで直流電流、藤代駅付近から北では交流電流で運行しているという事実でした。なぜ直流から交流に切り替えているのか、その答えは、柿岡に設置された地磁気観測器に影響を与えないためだ、というのです。直流電流のノイズは観測に大きな影響を与えるから、直流から交流へ切り替えているのだと。立ち入り禁止の観測地には、高精度の磁気観測装置や地下変位計、比較校正室などが配置され現在も稼働中で、そのデータは宇宙天気予報、磁気嵐、火山噴火予測などの目的で世界で共有されている、といいます。それも、109年前から連続して測定されているというから驚きです。戦争中は男性が次々と戦場に送られる中で、女性所員たちが観測を続けたそうです。建物は関東大震災にも東日本大震災にも耐えたそうです。   

  この話は、小学生には難しかったかもしれません。参加した小学生たちは、そのあとの特別回送列車に乗って車両基地まで移動し、運転席体験などを大いに楽しみました。同行した大人たちにとっては、TX乗車体験も結構でしたが、地磁気観測所が常磐線やTXの設置にまで影響していたことを知り、感慨深いものでした。少なくとも私は石岡市柿岡という地名を深く記憶したことは間違いありません。