学長ブログ

11月の学長ブログ

 もりや市民大学は2012年10月に開校したので、今期で10年目を迎えました。そこで、運営委員会では、この10年を振り返り、これからどう発展させればよいかを自由に語り合おう、ということになりました。10年前、手探りで始めた市民大学、なんとかここまでやってきました。運営委員の皆さん、講師の皆さん、サポート役の皆さん、受講生の皆さん、守谷市役所市民協働推進課の皆さん、市民活動支援センターの皆さん、市民大学友の会の皆さん、こうした方々の支えがあって今日があります。

 この10年間、世の中はどのように変化したでしょうか?もりや市民大学が開講した2012年12月には第46回衆院選があり、自民党が294議席を得て圧勝、民主党は惨敗し、退陣した野田佳彦首相は党代表も辞任しました。2013年の流行語大賞に「お・も・て・な・し」が選ばれ、オリンピック・パラリンピックの日本開催決定に浮かれていました。しかし、ご承知のように、その後、金銭をめぐる深い疑惑が残されました。2018年は日産のゴーン社長が逮捕されました。2019年、元号が平成から令和へ移行し、ペシャワールの会の中村哲医師が殺され、渋野日向子が全英女子オープンゴルフで優勝しました。2020年は新型コロナの感染拡大でオリンピック・パラリンピックの日本開催が延期され、甲子園の高校野球は中止となりました。もりや市民大学も開講中止でした。2021年にはオリンピック・パラリンピックが開催され、アメリカではバイデン政権が発足しました。日本では熱海で土砂災害が発生しました。2022年2月24日、ロシアのウクライナ侵攻が始まり、その後、このニュースがあまりにも重いので、他の出来事の記憶がかすんでしまうほどです。

 一方、もりや市民大学の10年を振り返ると、はじめのころは「守谷町から守谷市へ」「守谷の町内会」「守谷の子どもたち」「守谷の自然と環境」「守谷の防災」「守谷の国際交流」「守谷の教育」など、守谷を知ろうという内容の講義が多かったのですが、その後「パートナーシップによる緑のまちづくり」「<わたし>を生かす地域プロジェクトをつくろう!」などといった専門コースを充実させ、実際の行動へと発展させてきました。特に「脳いきいき!ウォーキングで健康貯筋」コースからはウォーキングを市民に広げる活動へと発展しました。これから先、どんな方向へ展開するか、「お・た・の・し・み」と行きたいものです。

 

10月の学長ブログ

 コロナ禍はまだ終息しません。そんな中では各種の会議がオンラインで開催されます。つい先日も15人ほどの全国規模での学者のZoom会議が開催され、私も出席しました。この中で、私はガッカリ気落ちする出来事がありました 。それは、会議中に「プラネタリーバウンダリー」とか「レギュラトリーサイエンス」という言葉が頻繁に使われたからです。「パラダイム」とか「ロバストネス」とか「レジリエント」などの言葉にやっと慣れてきたと思っていたら、更に新しい言葉が登場していました。


 集団の会話の中で、新しいカタカナ文字がまるで昔から使われていた共通用語であるかのように使われるとき、その言葉を知らなかった者は強烈な疎外感に襲われます。知らないのは自分だけなのか、とがっくり来ます。他の人は、その新しいカタカナ文字を当たり前として会話しているのですから、ついていけない参加者は蚊帳の外になります。いったい、その言葉はいつからどこで使われ始めたのか、誰が言い始めたのか、チンプンカンプンです。そこで、急いでスマートホンにその言葉を書き込んでネット検索し、何とか遅ればせながら会議の会話に追いつこうとします。


 こうした経験は、恐らくどなたもお持ちだろうと思います。新しい言葉を、あたかも皆が知っているかのように当たり前の言葉として使うこと、これは刺激的ですが少々辛い状況です。若者の場合、新しい言葉を瞬時に共通語として認知する運動神経が非常に鋭いのですが、高齢者の場合、新しいカタカナ文字に馴染むには時間がかかります。ちょうど、パソコンやスマホに馴染むのに時間がかかるのと同じだと思います。

 会議の中で知らない言葉が当たり前に使われるときに味わう疎外感、それに耐える力が必要でしょうか?それとも、「日本語が乱れとる!」と怒るのが正道なのか?皆さんはどうお考えですか?私は、まずはガッカリ気落ちします。それから、気を取り直してその新しいカタカナ文字が表現している現実社会を眺めます。そして、考え込むのです。そうか、新しい視野はこうして開かれるのか、と感慨深いのです。

 脚注:プラネタリーバウンダリー「人類が生存できる安全な活動領域とその限界点(ウィキペディア)、2020年頃から世界に広まった新概念」、レギュラトリーサイエンス「身の回りの現象に関する科学的研究成果を国民の健康に資するための科学(私の意訳)、2011年閣議決定の中で使われた新用語」、パラダイム「ものの見方、考え方を支配する認識の枠組み(オックスフォードラングイッジ)」、ロバストネス「外乱の影響によって変化することを阻止する内的な仕組み(ウイキペディア)」、レジリエント「弾力性、柔軟性、回復力のある(ソフトバンク)」、一応、上記の新語の説明文を付記しました。
 

9月の学長ブログ

  筑波山頂から東へ約7.5km離れた場所に石岡市柿岡という地名があります。さらに東へ約2㎞進むと東筑波カントリークラブというゴルフ場があります。さて、この石岡市柿岡という地名がTXや常磐線と関係が深く、しかも世界における重要拠点である、ということを知ったのはごく最近のことです。     

  8月28日(日)朝は生憎の雨でしたが、TX守谷駅改札口に珍しい光景がありました。小学校高学年の子供とその親15組が集合でした。目的は、もりや市民大学公開講座「学ぼう!TX講座」親子イベントへの参加でした。お父さんが多い様でした。この講座、人気が高くて、抽選で外れてしまった方も大勢でした。さて、TX講座の話の中で登場したのが石岡市柿岡です。この地に気象庁磁気観測所(海外ではKAKIOKAと呼ばれている)が設置されているそうです。

  そして、講座で学んだのは、TXは秋葉原から守谷まで直流電流、守谷駅からつくば駅までは交流電流、JR常磐線は上野から藤代駅付近まで直流電流、藤代駅付近から北では交流電流で運行しているという事実でした。なぜ直流から交流に切り替えているのか、その答えは、柿岡に設置された地磁気観測器に影響を与えないためだ、というのです。直流電流のノイズは観測に大きな影響を与えるから、直流から交流へ切り替えているのだと。立ち入り禁止の観測地には、高精度の磁気観測装置や地下変位計、比較校正室などが配置され現在も稼働中で、そのデータは宇宙天気予報、磁気嵐、火山噴火予測などの目的で世界で共有されている、といいます。それも、109年前から連続して測定されているというから驚きです。戦争中は男性が次々と戦場に送られる中で、女性所員たちが観測を続けたそうです。建物は関東大震災にも東日本大震災にも耐えたそうです。   

  この話は、小学生には難しかったかもしれません。参加した小学生たちは、そのあとの特別回送列車に乗って車両基地まで移動し、運転席体験などを大いに楽しみました。同行した大人たちにとっては、TX乗車体験も結構でしたが、地磁気観測所が常磐線やTXの設置にまで影響していたことを知り、感慨深いものでした。少なくとも私は石岡市柿岡という地名を深く記憶したことは間違いありません。

8月の学長ブログ

 8月11日の発表によると、守谷市のコロナ累計感染者数は7950件だそうです。8月の市民人口70239人をこの感染者数で割ると、8.8人になります。つまり、8.8人中1人が感染したことになります。守谷市の家族構成は平均2.4人/家なので、4軒中に1人以上は感染したことになります。市内では、向こう3軒両隣に1人以上の感染者がおられたとしても不思議ではありません。無論、自分自身を含めてです。

 

 日本全体での累計感染者数は約1510万人です。日本人口は1億2560万人なので、8.3人中1人が感染しています。守谷市とほとんど同じ水準です。こうなると、もう他人ごとではなくなりました。ご近所、知人・友人、身内に感染者が誰一人いない、という日本人はいなくなった、と言えるでしょう。

 

 こんな時代を経験するとは思いませんでした。カミュの小説「ペスト」が書かれたように、今度は「コロナ」という小説を準備している作家がいるかもしれません。思いもよらぬこの時代をどのように過ごしてきたか、また、この先をどう生きたか、小説でも読んでみたいですね。私としては、「コロナ後」を考えたいです。まず、コロナは必ず収束する、或いは、インフルエンザや普通の風邪と同じレベルの存在になるという理解は、それがいつになるかは別として、確信になっています。

 

 そして、どんな日常が戻るのでしょう。

① ほぼコロナ前と同じレベルの日常に戻る。

② コロナを経験したので、マスク手洗いをし続ける人が増える。

③ オンラインで仕事や会議を経験したので、ある程度その方式が社会に定着する。

④ リバウンド効果が大きく、人々が活発に動き回り、好景気が始まる。

⑤ コロナのある時代に学園生活を送った若者たちが、失ったものを取り戻すために大きなエネルギーを発揮する。

こんな社会が想像できます。気づくのは、なぜか肯定的、楽天的な想像が優先することです。どう考えても、より悪くなるシナリオを考え付くことができません。ただ、地球規模の気候変動やロシアによるウクライナ侵攻など、コロナ以外の懸念材料が世界を覆っていることを忘れてはなりませんね。

7月の学長ブログ

 日頃、人口について考えることは滅多にありません。新聞、テレビ、スマホのスマートニュースでも、見出しに「人口」が表記されることは稀です。今月11日は国連が定めた「世界人口デー」でした。ここで、本年11月15日に世界人口が80億人に達すると予測されました。私が生まれた1947年の地球人口は約25億人程度でしたから、3.2倍です。これだけの地球人口を養うには、ウクライナの小麦を輸出しなければ到底足りないのに、ロシアは何と愚かしい侵略を行っていることか。

 一方、守谷市の広報を見ると、いつの間にか人口が7万人を超えていました。なかなか7万人の壁を突破しないな、と思っていましたが、人口が増えたのですね。もりや市民大学の本年入学生にも、最近守谷市へ引っ越してこられた方々もおられます。6月4日の開講式で集計したアンケートによると、全回答41人中27人が初めての入学者でしたから、この中には守谷在住1年以内という「新人」もおられることでしょう。

 ところで、最近「関係人口」という、地域社会にとって新しい考え方が広まっています。「関係人口」は「定住人口」とも「交流人口」とも異なる第3の人口で、地域に心を寄せる人、或いは、地域に関わりを持つ人、そういう人々のことを指すそうです。でも、「関係人口」の数はどうやって数えるのでしょう?分かるような、分からないような、ふわふわっとした新概念です。

 そこで、もりや市民大学では、この「関係人口」を解明し、守谷市で実践的に「関係人口」を増やす構想を研究しよう、というコースを立ち上げました。それが、市民科学ゼミという2年間コースです。こんなコースを設置して大丈夫か?と恐る恐る開講したところ、予想を上回る希望者が現れ、すでにゼミが開始されました。茨城大学人文社会科学部の伊藤哲司教授がゼミの指導をしてくださいます。伊藤先生は「つどうつながるつむぎだすラボ」という任意団体の代表も務められており、今回の市民大学ゼミは、この団体の初仕事だそうです。聞きつけた市民の中には、いまからでもゼミに参加したいという希望者がいるそうです。このゼミ、守谷市の新時代を開いてくれそうですよ。

6月の学長ブログ

 6月4日(土)守谷市中央公民館講堂にて、2022年度もりや市民大学開講式が挙行されました。2019年度通常開講、2020年度全面中止、2021年度ハイブリッド方式の開講、これらの特別体制を経て、今年度もハイブリッド方式の開講となりました。公開講座を除く4コース定員65名にて募集した結果、申込者数79名(延べ人数)となり、入学者数の調整が必要となりました。

 

 定員超過に対する公平な対処方法としては、「先着順」「抽選」などが普通であり、もりや市民大学でも「抽選」を準備していました。ところが、思わぬ問題が発生しました。それは、ハイブリッド方式(教室対面受講とオンライン受講の混合)特有の問題でした。教室対面式の人数制限は新型コロナ感染対策上の制約なので、破ることができません。一方、オンライン方式は人数を増やしても特段の問題は生じませんので、申込者数超過のために抽選漏れとなった方々に「オンラインならどうぞ」とお誘いすることができるのです。

 

 ここで2つの問題が生じました。①オンライン方式で受講することが可能な方と不可能な方がおられること、②校外授業や施設利用授業では定員以上の人数を受け入れられないこと、です。この2点で公平性を保つことの困難が生じました。そのため、単純な抽選方式を適用できないことが分かりました。何しろ経験したことのない事態なので、この事態を予測することができず、困惑しました。市民の皆さんにご迷惑をかけたことは深くお詫びしますが、我々運営委員会の経験不足、力不足なので、どうか御容赦いただきたい。

 

 こうして、もたつきのある出発となった2022年度もりや市民大学ですが、明るい兆しも見えます。それは、受講生の年齢幅がこれまでになく広がり、20代から80代まで万遍無く各世代からの受講生が集まったこと、もう一つは、実現可能かどうかを心配していた「市民科学ゼミ」という新規コースに9人もの入学者を得たことです。守谷市を発展させるための人材育成としてこれほど心強いことはありません。2022年度のもりや市民大学がより良い成果を挙げるべく、運営委員一同、受講生に寄り添いながらさらに努力する所存です。本年度も、どうぞ宜しくお願い致します。

5月の学長ブログ

 立花隆、という名前をどなたもご存じのことでしょう。「知の巨人」と言われ、「田中角栄研究」「宇宙からの帰還」「臨死体験」などの著書で次々と話題をさらい、昨年4月に80歳で亡くなりました。その著書の中に「新世紀デジタル講義」(新潮社、2000年)という本があります。その序文に、これまでの読書法とこれからの読書法について、面白いことが書いてありました。曰く「拾い読み、トバシ読みでもよいから、できるだけ多読、乱読する(中略)効用を強調する人はあまりいなかった」「とにかくわかるところだけ拾ってガンガン読んでいく」「わからないところはとりあえず後まわしにして、とにかく先に進め」「ひっかかっても、止まってはいけない。とにかく進むことである」と。

 

 この序文を読んで、電子機器の取り扱い説明書(取説)を思い起こしました。或いは、パソコンやスマートフォンなどで推奨される新しいソフトウエアの説明文なども頭に浮かびました。こういった文書は、ほとんど何が書いてあるかわからず、1行か2行読んだあたりで挫折することもしばしばです。

 

 しかし、立花隆によると、わかるところだけ拾ってガンガン進め、とおっしゃる。「場合によっては、何十ページにもわたって、ただページをめくるだけに終わるかもしれない。それでもとにかく最後までページをめくってみることだ。」そうすると「本当の多読能力」が身につくという。まことに柔軟な考え方であり、教えられるところが大きいです。

 

 精読、熟読の経験を積み重ねて今日までを生きてきた諸氏においては、こういったスピードのある読書法を受け入れることに抵抗感がありましょう。私も、立花隆が言うような軽快な読み取り技術を身につけることに困難を感じます。が、世の中がデジタル社会に向かって動き始めている今日、自分の家族や身近な地域社会でも、こういった「新しい常識」が定着しつつあるのだな、と認めるところです。皆さんはどうお考えでしょうか?

4月の学長ブログ

 2022年度の「もりや市民大学」プログラムが漸く整い、パンフレット案内状の準備も完了しました。何しろ、2020年度はコロナ感染による完全中止、2021年度は教室とオンラインというハイブリッド形式での開講、そして、2022年度はコロナ第7波の様子をうかがいながらの開講準備、ということで、これまで体験したことのない異例体制が続いています。

 

 こうした準備で奮闘する「もりや市民大学」の運営委員ですが、どのようにして決まっているのか、ご存じでしょうか?そのほとんどは、守谷市広報に掲載された公募に応募された方々で構成されています。運営委員会は、この4月、5月にかけて、2023年度の市民大学運営方針の検討を始めます。コースの枠組みは2年間同一なので、2023年度は2022年度と同じ枠組みになります。しかし、その中身はまだ白紙です。運営委員の皆さんは、それぞれの役割分担に分かれ、2023年度にどんな講義を準備するか、回数や講義様式(教室受講、オンライン受講、現地訪問など)をどうするか、などを具体的に詰めていきます。

 

 ところで、こんな運営委員会でも、時々、「このままで良いのかな?」という疑問がふつふつと湧いてきます。先日も運営委員会とは別にフリーの懇談会「これで良いのか、市民大学」を開催しました。すると、出る出る、たくさんの意見が出ました。つまり、レールの上を安全に走っていればよいという大学ではありません。より良い市民大学にするためには何が必要か、自由な意見交換が大切なのです。

 

 このように、文字通り手作りの市民大学を運営しています。市民のご期待に添えないところがあれば、ひとえに私たちの力不足です。逆に、受講生から「面白い講義が聞けた」「選んだコースは自分に有益だった」などの感想をいただくと、運営委員は泣いて喜ぶ次第です。今回は、運営委員会の現状をサクっとご紹介しました。運営委員は、誰かに選ばれてなるものではありません。あくまで、自発的に参画された方々により構成されています。これが、多様性と透明性を保つために大切かな、と考えています。

3月の学長ブログ

  チェルノは「黒」、ジョームは「土地」、どちらもロシア語です。そして、チェルノジョームは「黒い土」を意味し、世界で最も肥沃な(有機物を豊富に含む)土なので「土の皇帝」と称されています。チェルノジョーム地帯では、小麦やトウモロコシなどが肥料無しでも豊かに育ち、世界の穀倉地帯を形成しています。ちなみに、チェルノブイリは「黒い草」を意味します。チェルノジョームもチェルノブイリもウクライナにあります。
 
 ウクライナの豊かさは黒い土(チェルノジョーム)と広い平野がもたらしていると言えますが、その大切なチェルノジョームをロシアの戦車がかき乱し、土地を荒らしています。何という乱暴狼藉か。

 
 毎日のニュースが、ウクライナ情勢とオミクロン株感染で占められ、パラリンピックの閉会式はほとんど無視されてしまいました。こんな暗いニュースが世界を覆う日が来るとは、思いもよりませんでした。

 
 かつてソ連時代のウクライナを訪問した経験を持つ友人から、当時の写真が送られてきました。チェルノジョームに穴を掘り、土の断面を写真に収めたのです。その写真を眺めると、まるで日本の土を見ているようです。よく似ているので、今回は珍しく写真添付のブログとします。見た目は似ていますが、チェルノジョームの方が土の肥沃度がはるかに高いことに、驚きと羨望を覚えます。

(写真添付作業中)

左はウクライナのチェルノジョーム(古い写真なので青みがかっている)、右は千葉県の関東ローム。守谷市が配布した緑のヤッケを着ているのは私です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2月の学長ブログ

  黄砂は、ゴビ砂漠やタクラマカン砂漠で巻き上げられて偏西風によって広域に運ばれ、春先の日本にも飛来して地面に落ちてきます。スギ花粉と同じような時期に飛来するので、花粉症アレルギーと黄砂アレルギーを同時に発症する人もいて(実は私もその一人)、全く厄介物だと考えていました。

 
 ところが、最近、この黄砂が人間を救う働きをしていることが分かってきました。あの福島第一原発事故由来の放射性物質セシウム137ですが、黄砂はこのセシウムを強く吸着して作物に吸収されることを抑える効果があることが、京都府立大学の中尾淳博士らのグループによって解明されました。「黄砂には作物を守る力がある」のです。特に、守谷市のように火山灰土や黒ボク土で覆われている土地では、この発見は重要な意味を持ちます。なぜなら、火山灰土はセシウムを吸着する力が弱く、このような土に植えた作物は土壌中の放射性物質を吸収する心配が大きいのですが、たとえ微量でも火山灰土に黄砂が混じっていればそれがセシウムを吸着してくれるのです。
 
 幸いなことに、黄砂は日本全体に降り注いでいるので、守谷市のような火山灰土の土地でも、この微量な黄砂がセシウムを捉えて離さない、という効果を発揮しているのです。アレルギーの敵、と思っていたにっくき黄砂が、実は命を守る大事な働きをしていたと知った時の驚きは、とても大きいものでした。なぜ黄砂がセシウム137を捉えて離さないか、というと、それは火山灰土にはほとんど含まれていない雲母(うんも)という成分が黄砂には豊富に含まれており、この雲母がセシウムを強く吸着するからなのです。
 
 雲母(うんも)はキララとも呼ばれますが、そう言われてピンとくる人は滅多にいません。絶縁体に使われているね、と気づく人は、電気に詳しい人、岩石のかけらで表面のピカピカから雲母を連想する人は、タモリのように岩石に詳しい人でしょう。有名な作家、芥川龍之介は、「雲母のような」といった表現を複数回利用しています。この雲母を含む黄砂が日本人を助けている、と知って、一面だけで好き嫌いや価値を判断してはいけない、と大いなる教訓を得た次第です。