学長ブログ
9月のブログ
2020年オリンピック・パラリンピック東京開催が決定し、日本中が沸き立っているようです。福島第一原発の汚染水漏洩問題について安倍首相が「アンダーコントロールにある」と力強く述べたことが効果的だったと報道されています。私は、土壌科学の専門家として、この問題は簡単に「コントロール」できないと思っているので、とても心配です。地表面下の水の動きは複雑です。海と陸地の境界付近の地下水は、比重の異なる真水と塩水が入り混じるので、タンクから漏洩した放射性物質で汚染された地下水がどのように動き、そしてどういう経路で海洋を汚染するか、そう簡単に分かるものではありません。セシウム137を吸着して水と一緒に運ばれる土粒子の動きも追わなくてはなりません。これも人間のコントロールがなかなか及びません。他に、漏洩タンク近傍の地下水からストロンチウム90、トリチウムの検出も報道されています。今回の汚染水漏洩問題は、情報を全て開示し、国際対応チームを立ち上げてもおかしくない重要問題です。今後の政府の対応が、非常に気になります。
8月のブログ
再び川崎市民アカデミーの話です。実は、私を講師で招聘した東京大学名誉教授は、この4月からアカデミーの学長に就任されました。ご専門は森林科学で、最近「森林飽和―国土の変貌を考える」(NHK出版)という珍しいタイトルの本を出版されました。現代日本は、森林の飽和状態、つまり、「歴史上かつてないほど豊かな緑を背景にして生きている」という驚くべき事実が記述され、注目されています。
ところで、私たち人間は「飽和」しているでしょうか?言い換えれば、「満たされている」でしょうか?恐らく多くの方が、まだ、満たされてはいない、もっと知りたい、もっと豊かでありたい、もっと高まりたい、と考えておられるでしょう。つまり、私たちは「不飽和」な存在です。そして、飽和になりたいと思うとき、力を発揮します。不飽和は力の源です。そう考えてみると、満たされていない状態、「不飽和」な存在は、実は成長する力を内包した若々しい姿でもあるのです。市民大学は、不飽和な人を歓迎します。そう、その人こそ、明日の飽和へ向かって成長する人、つまり本学の学生なのです。
やや、我田引水に傾きました。一人で盛り上がってしまいました。これには理由があります。なぜなら、私は不飽和土壌の専門家だからです。水で満たされていない土壌が不飽和土壌です。不飽和土壌は、もっと水を吸い込みたくてうずうずしています。そういう土壌の振る舞いを研究してみると、地球上の様々な物質循環の姿が見えてきて、興味が尽きません。そんな研究人生を送ってきたので、「飽和」「不飽和」に過剰反応した次第です。研究者は、やっぱり変人がなるもの、と思われたことでしょう。否定しません。