学長ブログ

11月の学長ブログ

 友人が、江戸時代に学ぶ農書を書いているそうです。江戸時代?と疑問に思いましたが、日本のイナ作技術が江戸時代から明治時代に移った時に大きな変貌があったといいます。彼が着目したのは、主として雑草処理、つまり、水田の除草技術に関する問題です。

 友人曰く、江戸時代に多数回中耕除草法という技術が発展し、無肥料・無農薬で多収することが可能だったそうです。しかし、明治以降は西洋農学の導入が進み、化学肥料と農薬を使用した栽培が当たり前のようになった、と言います。よーし、それなら江戸時代に完成度を増していた多数回中耕除草法を現代に蘇らせて試してみよう、と思い立ち、その後10年間、試験水田において、自然と共生する無施肥・無農薬のコメ作りに挑戦し、予想を上回る成功を収めたといいます。

 毎年その試験水田で収穫されたお米を送ってくれるので、私も食べ比べを続けているのですが、確かに、年々美味しくなってくるのです。友人は、無施肥・無農薬でもちゃんと除草ができ、病害虫にも耐性があり、美味しくて立派なコメ作りが可能だ、と自信を深めています。「自然栽培」という雑誌にも、しばしば記事が取り上げられ、全国のコメ作りの人々が見学に来るほど知られるようになりました。

 最新の科学技術をファストサイエンスと呼ぶとすれば、この友人の技術はスローサイエンスそのものです。最近、スローサイエンスを見る機会はめったにありませんが、こうして身近でそれを実践している例を見ると、何だか嬉しいです。スマホやパソコンで、操作が行き詰まり、「訳わからん」と放り出すとき、いや、身体で分かるスローサイエンスもあるぞ、と、気を取り直せる、そんな今日この頃です。