学長ブログ

5月の学長ブログ

  かつて、世阿弥の「風姿花伝」を読んだとき、深く感じるところがありました。曰く、20代の頃は何をやっても華があり、皆がほめてくれるが、慢心せずに精進することが大事で、30代こそ本当の実力を身につけるときであり、40代になると本物だけが評価されるようになり、下り坂の50代でも、本物であれば控えめに振る舞うことでそこに華がある、といった内容だったと思います。
 そこで、最近の20代、30代、40代、50代以降がどんなふうに見えるか、と私自身の周りを眺めてみました。20代というと大学の学部学生や大学院生です。私が毎週講義に行っている私立大学の学生諸君ですが、爽やかで素直な若者が多いと感じています。高齢者に向かって反抗的な言動や批判的な言葉を浴びせる若者は皆無、といっても良いほどです。
 東京都内のある会社に縁があり、毎週出向いていますが、そこでは30代の会社員たちと交流があります。彼らは何でもできるのですが、自信を持っていないような気がします。バブル崩壊という時期に青年期を送っており、現実を直視する目が肥えているのかな、その分、夢を語るほどの大言壮語ができなくなったのかな、と少し心配です。
 40代は現在猛烈に忙しくて、私の相手をしてくれる人は多くありません(私事で言えば息子世代です)。それなりに社会的責任を自覚して今現在の世の中を支えてくれているような感じです。
 50代の皆さんはちょっとした強さを持っていると思います。かつては50代といえばゴール前の最終段階でしたが、今の50代は次に何をするかという準備をしつつ将来を考えています。長い老後を覚悟しているようです。
 そして「風姿花伝」では寿命が尽きているはずの60代ですが、多様性に満ちています。過去の延長線上で頑張る人、過去と決別して今を充実させている人、新たな仕事を見つけて家計を支え続ける人、新しい自己開発や趣味に挑戦する人、社会のために貢献することを信条とする人、全く十人十色とはよく言ったもので、どう見ても「控えめの人生」とは思えません。そう、我々は、世阿弥の知らない世界を生きているのです。今月は、妙に気合が入りました。