9月の学長ブログ
毎月、15種類以上のいろいろな学術雑誌が手元に届きます。その中の1つにJGL (Japan Geoscience Letters)という16ページ編集の薄い雑誌があり、日本地球惑星科学連合フェロー受賞者の記念特集記事がありました。この学会は、宇宙の科学から地球環境の科学、地球生命化学、地球温暖化、気象災害、地震など、地球と宇宙に関する科学全体の連合体です。フェロー受賞というのは、この分野で特に高い業績を挙げた研究者を名誉会員として表彰する制度です。
で、政府の地震調査委員会の長期評価部長だった方が、受賞者の1人として記念記事を書いておられました。記事のタイトルは「研究の面白さに、はまってしまった人へ」となっており、おや?珍しいタイトルだな、と思いました。この種の記事では、自分が歩んできた研究人生が認められて嬉しい、といった内容がほとんどだからです。そこで、どれどれ、と読み進んで行くと、何とこの方、怒っています。何に怒っているかというと、地震調査委員会で決定した事項が、社会への公表時に圧力を加えられたり書き加えられたりした、という経験を3回もした、と書いておられます。「不都合な真実」を覆い隠そうとする意図があったと思われる、と断言しています。
この名誉ある受賞者の方は、「研究の面白さにはまってしまった人、のめり込んでいる人、そんな人に、思いがけない落とし穴が待っている」と言うのです。その落とし穴とは、「科学的におかしなことが大手を振っている場が存在する」とのこと。どうやら、地震調査委員会のことをさしているようです。そして、研究で成果を挙げて人に知られるようになり、やがて声がかかって○○委員に指名されたとしても、居心地の悪い場にいることは時間の無駄だから、即刻退場したほうが良い、とアドバイスしています。地震調査会で、よっぽどいやな目に会ったのでしょう。名誉ある受賞者の記念記事としては異例の告発文でした。
科学が社会の役に立つためにはどうしたら良いか、というテーマは、今もとても重要な論点です。もりや市民大学と同じく、科学と社会の「協働」のあり方を模索している昨今です。しかし、科学的に正しいと信ずることを発信したくても、必ずしも科学者の思い通りには社会に届かない、とすると、どこかが狂ってきそうです。この受賞者さんの怒りは、科学者にも社会の側にも深い問題提起になっていました。この方が言う「科学的におかしなことは科学の場で批判せよ」という結論が社会に届くと良いのですが。