8月の学長ブログ

 オリンピックが終わり、終戦記念日があり、次のパラリンピック開始までにコロナウイルス感染者が何とか減少に転ずるといいな、と思っていた矢先に、今度は災害のニュースがいっぱいです。線状降水帯という厄介な「雲の糸」が上空を覆い、信じられない大量の雨を降らせています。2019年の常総市鬼怒川洪水を思い出さずにはおれません。どうしてこんなに異常気象が続くのでしょう?

 人間活動がもたらす気候変動、それが異常気象の元凶であるとの見方が有力です。IPCC (気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書第1作業部会が8月9日に発したレポートには、「人為起源の気候変動は、世界中の全ての地域で、多くの気象及び機構の極端現象に既に影響を及ぼしている。熱波、大雨、干ばつ、熱帯低気圧のような極端現象について観測された変化に関する証拠、及び、特にそれら変化を人間の影響によるとする原因特定に関する証拠は、AR5以降、強化されている。」と記載されています。AR5はIPCC第5次評価報告書(2013年)のことです。この「強化されている」(原文ではEvidence has strengthened)という表現に、何とも悩ましい工夫の跡が見られます。

 地球の歴史を紐解くと、宇宙138億年、地球46億年とかいう気の遠くなるような時間が経過し、この間、気候も自然現象のひとつに過ぎませんでした。ところが、約1万年前から人間活動が活発となり、それが自然気候の変動をもたらすようになったので、この1万年ぐらいを人新生(ひとしんせい、Anthropocene)と呼ぶべきだという学問的検討が有力視されています。

 今回の線状降水帯も、人間活動がもたらした気候変動の一環なのか、それともこれは自然現象のひとつに過ぎないのか、定かではありません。地球環境全体の傾向と対策については、様々な学術的手法を用いて科学的に記述できますが、個々の地域における異常気象の原因を一般論から証明することは、「強化されている」とはいえ、簡単ではありません。この辺に難しさがあり、更なる学術の発展が必要とされる所以です。