12月の学長ブログ
予想外の論文原稿を依頼されて困っています。私は、土と水というシンプルな自然物が見せる不思議な現象を基礎的に研究することが専門で、室内実験や理論解析が得意でした。土の中では水蒸気はどんな風に動くか、とか、平地に浸透する雨水と傾斜地に浸透する雨水に違いがあるか、とか、土壌微生物が関与すると土の中の水やガス(CO2やO2)の移動はどう変化するか、などといった、すぐには役に立たない研究ばかりやってきました。今回、オートファジーの研究でノーベル医学・生理学賞を受賞された大隅博士も、すぐに役立つ研究にばかりお金を注ぎ込まないで、もっと基礎研究を大切にしなさい、と口を酸っぱくして主張されています。
さて、そんな私に、ある科学雑誌編集部から、「地球温暖化で水資源や耕作適地はどうなってしまうのか?」を4回連載で論文にせよ、という注文が届きました。まさに、役に立つ研究です。しかも、今現在の問題だけでなく、未来予測に基づく人類の危機を説明せよ、という訳です。学生の期末試験でレポート課題に出したいような良問です。
おかげで、今年の年末、年始はこの連載論文に頭を悩まされ、きっと追い詰められた夢ばかり見ることでしょう。初夢??そんな楽しい話ではなくなりました。しかし、気候変動や温室効果は、地球全体にそれほどの暗雲をもたらしているのでしょうか?ちょうど、福島第一原発事故後の放射性物質拡散の問題と類似していて、「非常に深刻な問題である」から「それほど騒ぐ必要がない」まで、専門家の間でも広く意見が分かれています。同様に、地球温暖化問題も、「このままでは人類は滅びる」から「それほど大騒ぎする必要なし」まで、やはり見解が分かれます。一般社会人は、要するにどうなんだ、と科学者や専門家を問い詰めます。今回、私が問い詰められた次第です。
これからこの難題に立ち向かう私は、自分の立ち位置をどこに置くか、忘年会・新年会の宴会席上でも悶々と悩んでいるわけです(はたから見ると楽しく酔っ払っているように見えると思いますが・・・)。私としては、何事にせよ「ファクトファースト」で行きたい訳でして、そのファクト(事実、実態)を見つけ出すことに苦労します。こうして、「私は困っています」と白状して今年を終えたいと思います。皆様、良いお年をお迎えください(できれば私も)。